日曜日。
昨日からの雨は止みそうもない。
ちょっと寝坊した朝なのに外はまだ薄暗くて、雨粒が天井をたたく音が、優しいリズムで眠りに誘うように、トントン、トントンって、鳴り続いている。
そして……私の隣には、あなたの小さな寝息。
スースーって……。
とっても素敵な音に包まれて、私は小さくあなたに語りかける……。
私、雨の降る日も嫌いじゃないよ。
あなたが教えてくれた呪文のおかげだよ。
「デリキリタフウ……」
ふふふ……あなたと一緒じゃないと、効果がない呪文なんだよね。
背中を向けて何かを紙に書いているから、『なにしてんだろ??』って、不思議に思っていたんだけどサ。
その後に飛び出した素敵な呪文。
昨日の夜、『海外旅行に行くとしたら、どこがいい?』って、聞いたでしょ。
窓の外を見てぼんやりしてたから、何を言われたのかわからなくて『うん』って、答えちゃって。
あなたは小さく笑いながら、私の後ろに周って……抱きしめてくれるのかなって思ったのに、私の肩に手を置いて『海外旅行いくなら、どこがいい?って聞いたんだよ』って。
あなたは、表情がめまぐるしくかわるから、考えていることって、すぐにわかるんだけど、その時は、変に無表情で、何を考えているのか、わからなかったなぁ。
ちょっと、予感めいたいなものは感じたかもしれないけど。
甘えん坊で、わがままで、プライドが高くて、気分屋さんで、ちょっとエッチで……
あなたみたいな人、私が好きにならなくちゃ、他の誰が好きになるんだろう、って。
だからね、私だけは、あなたを大切にしなくちゃ、って思ってるんだ。
週末だけ一緒に過ごす変な同棲生活で、一緒にいることができる時間が、どうしても少ないでしょ……。
だからね、金曜日の夜は、誰よりも早く会社を出て、あなたの部屋まで急ぐんだよ。
あなたが送ってくれる新幹線のチケットを握り締めて、あなたの住む街まで、もっと、もっと早く着きたい、って思いながら、流れる景色をみているんだよ。
あ、この話をしたこと、あったかなぁ?
ほら、私が乗る新幹線、毎週、同じでしょ。東京駅18時12分発のMaxとき341号。ちなみに新潟着は20時18分。毎週2時間の長旅をしているんだからね。
ま、いいや。その電車でね、いつも、一緒になるおじさんがいるんだ。
単身赴任だって、言ってたな。
いつも、一緒になる私のこと、気になっていたんだって。
でさ、ある日、『お嬢さんは、いつも、この新幹線に乗っているんですね』って、声を掛けてきたんだ。
最初は、(ゲッ、おじさんにナンパされたぁ~~)って、思ったんだけど、それがさ、すっごく、面白いおじさんで、会社のこととか、家のこととか、色々話してくれるの。
せっかく、一生懸命帰っても、家族は誰も、相手にしてくれないんだって。
おまけに、猫まで、おじさんの顔をみると、逃げちゃうって……そんな話を聞いたら、普通、暗い気持ちになるでしょ、それがさぁ、すっごく、面白おかしく話すんだよねぇ~。
そうそう、そのおじさん、私が、毎週末、あなたの所に通ってるって言ったら、『けしからん』だって。
『そんなのは、男が通うべきだ』って。
シンデレラ・エキスプレスだって、女の子がホームで見送るから、絵になるんで、男がホームに残されるなんて、格好悪いってさ。
いっぱい、笑ったから、涙出ちゃった……。
私が、電車を降りるとき、おじさん、『頑張れよ』って言ってくれたんだ……。
私は、グッって、力こぶを作って、『頑張る』って答えたよ。
そう、頑張って、あなたの夕食を作るんだ……。
あなたは、いつも、私が着くのを待っていてくれるよね。
あなたの部屋に着くのは、9時近くになってしまうのに食事も取らないで。
あなたから『今夜は残業あり』って連絡があると、たくさん、買い物していくんだ。
じっくり、料理できるチャンスって、少ないからね。
いろんなものをたくさん作って、早くあなたを私の味に慣らさなくっちゃね。
でもさ、私、どうして、あなたにこんなに尽くしているんだろ、って思ったりもするのよねぇ。
だって、あなたは、私の料理に『おいしい』って、言ってくれたことないでしょ。
何も言わずに一気に食べちゃってさ、食べ終わったら、『ふ~~』とか言っちゃて。しばらくしてから、『塩気が足りない』とかなんとか……。
あ~~っ、思い出したら、腹が立ってきた……。
なにさまよぉ~。
そうそう、この間だって、ワインを買って『後でゆっくり飲もうね』って言ったのにさ、あなたったら、一口飲んだだけで、もう、ウトウトし始めちゃってさ……。
『ちゃんと着替えて寝ないと風邪引くよ』って言ったのに……。
あのとき、大変だったんだから。
ベットに連れて行こうとしたって、動かないしさ……重かったんだよ。
それにさ……『もう、私、酔っちゃったぁ~』って、甘えることも、できなかったじゃない……。
ほーんと、あなたには、私が、いなくちゃ、ダメなんだよねぇ~。
あ~あ、よく、寝てる。
でもね、今日は、雨だから、このまま、寝ていていいよ。
ぐっすり寝ているあなたを見るのって、すごく嬉しいから。
出会った頃のあなたは、うなされることがあったし、それどころか、心配しちゃうくらい眠ることができずにいたもんね。
『夜、寝ることが、一番、辛いんだ』って聞かされたときは、本当に驚いたよ。
私なんか、ベットに横になったら、すぐに寝ちゃうもん。
『昼間、ずっと難しいこと考えているからだね』って言ったら、苦笑いしてたよね。
あなたが、この間、テレビに出ていたとき、私さ、一所懸命、見ていたんだよ。
なんか難しそうな……うんん、難しいんだよね。
うん、えっと、んとねぇ……流体(りゅうたい)力学のモデルが、なんとかで……。で、そのシュミレーションが、なんとかでぇ~……。
気がついたら、テレビが砂嵐になってたよぉ。
あなたの声が子守唄だったみたい。
それでもね、仕事で、とっても難しい研究をしていても、あなたは、週末を私のために、確保してくれるんだよね。
天気がいいと、あなたは、私を色々なところへ連れて行ってくれるでしょ。
公園に行くのが、あんなに楽しいなんて、知らなかったよ。
フリスビーを追いかけたりしてさぁ~。
20歳過ぎて、公園で走り回るなんて、思いもしなかったもん。
先月なんて、買い物行こうかって、車出したのに、いつの間にか、高速に乗っててさ……。
助手席で、うたた寝しているうちに福島まで来ていて……。
喜多方ラーメンのお店にいって、あぶくま洞行って……。
「五色沼を見たいから、紅葉の季節に。またこようね」って。
新潟から福島までなんて、思いつきで日帰り旅行をするような距離じゃないと思うんだけどなぁ~。
あなたは、あなたなりに、私を楽しませてくれようとしているんだよね。
ラーメンは、すごくおいしくて、景色もきれいで……楽しかったよ。
でも、あなたが、疲れちゃったんじゃないかって……。
あなたは、その週は、会社に泊まりこんでいたんでしょ。
たくさん、お休みを取らなければならない週末だったのに……。
だから……さ。
私は、雨が降っている日は、大好きだよ。
あなたにゆっくりとして欲しいから。
そして……そしてなによりも、あなたが、教えてくれた呪文が、私には効いているんだ。
「デリキリタフウソゴスニカズシ」
これは、雨の日を優しい気持ちで、過ごすための呪文だよね。
私が入れた紅茶を飲んで、子供の頃に見ていた夢や、大好きだったおとぎ話、遊園地に行った思い出話をして……。
あなたの話は、いつも、面白おかしくて、何が本当で、何が冗談なのか、わからないときもあるけど……。
ふたりで、たくさん、話ができるから、雨の日は大好きだよ。
昨日から、降り続いているのに、雨は止みそうにないね。
でも、今日からは、今までより、もっと、もっと、雨が好きになりそうだよ。
だって、雨が降っていなかったら、あなたは、二つ目の呪文を唱えてくれなかったかもしれない。
「ルスニツセイタウヨシンコツケ」
何のお呪いなの、って聞いても、あなたは教えてくれなった。
『教えて、教えて、ってせがんだら、あなた……キスをしてきて……。
あなたは、まだ、小さな寝息を立てている。
ベッドサイドのテーブルには、あなたの書いたメモが1枚、クシャクシャに丸まっている。
私は、メモに手を伸ばし、そっと胸にあててみる。
「ルスニツセイタウヨシンコツケ」
このメモは、私の一番の宝物。
カタカナで、「ケッコン シヨウ タイセツニ スル」って……書いてある。
「結婚しよう大切にする」
逆さから読むと「ルスニツ セイタ ウヨシン コツケ」
最初の呪文「デリキ リタフ ウソゴス ニカズシ」は、「静かに過ごそう二人きりで」って意味だったんだね。
こんな単純な呪文なのに……。私は、もう、この呪文に掛かっているよ。
「ルスニツ セイタ ウヨシン コツケ」
ずっと、ずっと、大切にしてね……。
あ~あ、やっぱり、早く起きないかなぁ~~
私の呪い師さん。
【あとがき】
ちょっと、かわいくしてみました(笑)
男にとって、都合のよい女の子になってしまったのでしょうか?
その他にも、ちょっと、アニメ(オタク漫画)っぽいという意見があって、ガッカリだったりもします。(苦笑)
ちょっと、その方面になってしまったのかもしれませんネ。と、書きつつも本人は、強く否定したい(笑)
この後、目覚めた彼は、どうすると思いますか??
この作品は、「RainyHoliday」が元になっています。
「Rainy~」が、彼氏から彼女へだったので、アンサーソングのように彼女が彼氏にという感じで書いてみました。