D's Factory

  the Door of Dreams

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タイトル: 風の吹き抜ける丘の上

作成日:2003年10月26日 


朗読バージョン
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港公園の展望台。
夜の8時を過ぎると、仕事帰りのカップルが、少しずつ集まってくる。
高速道路を走る車のライトは、街が作り出す明かりとは異なって、光のラインが作り出す不定形なイルミネーションとなって、見るものを楽しませてくれる。
わたしは、あなたの腕にぶら下がるようにして、この展望台から景色を見ていた時のことを思い出す。
もう、1年も前のことなのに、あなたの手の温もりをハッキリと思い出すことが出来る。



待ち合わせには、いつも、あなたが先に来てくれたね。
……ああ、違う違う。
最初のときは、あなたが遅れて来たんだ。
車が渋滞に巻き込まれて、途中で何回も『ゴメン』って電話が入ってさ。
でも、わたしの携帯のバッテリーが切れちゃったんだよね。
でさ、途中から繋がらなくなっちゃって。
待ち合わせ場所に来たとき、あなたの顔、真っ青だったもん。
「怒って、帰ちゃったかと思った」だって。
そんなハズないのにさ……だって、あなた十五分しか遅れてないんだよ。
でも、それからあなたは、いつも待ち合わせに早く来てくれたんだよね。
わたしが、遅れても絶対に怒ったりしなかった。
「今日も、来てくれてよかった」って……。
わたしも、あなたに逢える日は、すべてを投げ打ってでも、時間を作るようにしていたんだ。



そう、最初のデートは遊園地だったね。ちょうど、港公園の近くにあったんだよね。
先に食事をしようっていったのに、あなた、緊張して喉を通らないって。
おかしかったなぁ。水ばっかり、飲んでいるんだもん。
普段、あんなに楽しく笑わせてくれたのに、いつもと全然違うんだもん。

毎日、あなたの職場に行っていたでしょ。時間にしたら十分程度なのにさ、絶対、笑わせてくれたよね。
ゲラゲラ笑っちゃうときも、苦笑いの時もあったけど……。あなたが出張でいない日は、寂しかったよ。
そうだね、その時に、ドサクサに紛れて「お茶しよ」とか、「デートしよ」とか、ずっと、言い続けてくれたんだよね。
わたし、色々な会社を回る仕事だったでしょ。だから、同じように声を掛けてくる人、いっぱいいたけどさ。あなただけは、特別……でもないな、最初は、聞き流していたもん。
なんでだろ、なんかのきっかけで、「Yes」って答えちゃったんだよね。

あぁ、そうだ……あなたの、必殺・ウンチク攻撃だよ。自分でも、雑学帝王って言っていたよね。
それで……そうそう、お金が合わないときの、チェック方法だって。
わたし、ちゃんと覚えているよ。
あなたはね、いつもの口調でいったんだよ。
『一日の売上を足し算していると、答えが合わない時ってあるでしょ。そんなときは、まず、答えを9で割ってみるんだ。それで、その答えが割り切れたら、12と21のように、どこかで桁を入れ違えちゃった、わかるんだ。それだけでも、間違いを探しやすいでしょ』って。
たぶん、こんな感じだったよ。ちょっと、小鼻が膨らんでね……子供が先生に褒められたのを自慢しているみたいでさ。
そう、それで、わたしは、あなたに興味をもったんだ。
たぶんね、この瞬間だったと思う。子供みたいな目をしているあなたに。




携帯の番号を教えてから、どれくらいだったかな。ずっと、電話だけだったよね。もちろん、わたしなりに距離を置くようにしていたし。
あなたが、デートに誘ってくれたきっかけは、わたしの喧嘩だったね。家で喧嘩して、友達の家に駆け込んで、そこから電話したんだ。あなたの声を聴いたら落ち着いてきて……うんん……あなたの途方にくれた声を聴いていたら、なんか、泣き続けるのが悪いような気がしちゃって……。
でも……その電話で、あなたは、家に帰るように強く勧めてくれたんだよね。で、ちゃんと家に帰ったら、そのご褒美に、遊園地連れて行ってくれるって……。わたし、「ご褒美じゃないじゃん」って、言ったよね。
あなた、困っていたけど、わたし、嬉しかったよ。

それからは、がんばって時間を作って……遠くに出かけることはできなかったけど……色々な場所にでかけたよね。
ほんの少しの時間でも、逢うことができれば待ち合わせをして。

それなのに……。
あなたの誕生日、わたしは、あなたと一緒に過ごすことができなくて。
ゴメンね。
あなたは、笑って許してくれたけど。
でもね、あなたの寂しそうな目が、わたし、なによりも厭だった。
わたしのせいなのにね。
わたしが、悪いのにね……。

そう……そして、あなたの誕生日、三日後……。
わたしは、あなたとひとつになった。
後悔はしてないよ。流されてもいなかった。
あなたは、誕生日を一緒に過ごせなかったことで、わたしが、負い目を感じているのでは、って気にしていたけど、わたしは、なにかきっかけがあれば、こうなると思っていたし……。嬉しさと戸惑いの中で、涙、出ちゃったけどね。
あなたが、黙って抱きしめてくれたから、これでいいって思ったんだ。



ねぇ、あなた。この公園は変わってないよ。
わたしたちの時計台も、まだ、ちゃんと、ここにあるよ。他の誰にも見えない、二人だけの時計台も。
あなたは、また、笑うのかしら。
街灯を時計台と間違えたんだよね。
でもさ、やっぱり、似てるでしょ。街灯と時計台って。今見てもそう思うな。
それに、わたしが時間を聞いたとき、あなたは、その街灯の方を見て時間を教えてくれたんだもん。

そう、それでね、わたしたちの時計台は、あのときのまま、ちゃんと時を刻んでいるよ。永遠のふたりだけの時間を……。
あなたは、わたしの勘違いにひとしきり笑った後、不意に真面目な顔をして言ったんだよ。
わたし、あなたの表情にドキっとしたもん。だから、今、思い返すと、すごく、クサイ台詞だったけどさ、ジーンと来たんだよ。
でも、あなたは、何かを感じていたんだね。
あなたの言葉は、今でも、鮮明に覚えている。
「僕たちは、他の人には見えない、時計台を見つけたんだね。この時計台は、ずっと、時を刻んでくれるよ。ふたりだけの永遠に止まらない時間を……」
そう、そして、あなたはこの公園に残る、ある恋の話をしてくれたんだよね。



遠い昔の話。この辺りは、まだ、さびれていて、宿場町だけが、小さな賑わいを見せていた頃。
町の中でも一番大きな宿屋の若旦那さんと出入りの行商の娘が、恋に落ちた話。

若旦那さんも、娘さんも、結婚していたんだよね。それが、偶然が重なり合って、話をするようになって。
身分が違うと、ロクに話も出来なかったなんて、今では信じられないけどね。
それでも、二人は言葉を交わすようになって、……。
お互いに連れ合いとは、うまくいってなくて。
娘さんは、旦那さんがこぼす愚痴のひとつひとつを真剣に聞いてあげたんだよね。
そして、ふたりは、すこしづつ打ち解けていって。
旦那さんの様子がおかしくなって、二人の関係は、周りにバレちゃったんだよね。
ふたりが、海辺で話をしているところに大旦那さんや奥さんが乗り込んできて。
でも……でも、引き裂かれた二人は、それぞれの家に帰り、元の暮らしに戻ったんだよね。
駆け落ちして心中した、って終わり方だろうと思ってたんだけど……。ふたりは、お互いへの思いを胸に押し込めたまま、元の生活に戻ったんだよね。
ホッとしたような、劇的な最後じゃなくてガッカリしたような……。
でも、あなたは、言ったよね。「生きていくって、一番辛い結論だよね」って。
あなたは、「最初は慰めあうだけの関係だったと思う」って言ったよね。それが、本当の気持ちになったから、本当の気持ちだったから、「生き続けた」んだよって。
そして「僕たちはどうなるんだろう?」……って。
わたしは、なにもいえなかった。



同じ公園で、同じ場所で……。
あなたは、もっと他の恋をして、結婚して、自分の家庭を持つこともできたんだよね。
わたしは……わたしには、捨てることが出来なかった……。子供も、今の暮らしも、なにもかも……。

あなたは、言ったよね……。
「でも、許される限り、この時計台の時を刻み続けていきたい」って。

ねぇ、あなた、わたしは、生きているよ……生き続けているから、また、この時計台を見に来ることができるよ。
色々と大変だけどがんばっているよ。
ここにくれば、あなたの思い出に逢えるから。
がんばっているよ。あなたに逢いにきているよ。
でも……ずるいよ……あなた……。
あなたの話では、昔のあの二人は、それぞれ、別な場所であっても、生き続けたんでしょ。辛い結論だったかもしれないけど生き続けたんでしょ。
なのに……あなたは……。
たかが、車の事故じゃない。居眠り運転の車に追突されたくらいで、死んじゃうなんて……ずるいよ……。
別れることになったとしても、生き続けるんじゃなかったの……。
ねえ、あなた……。
……あなた……ずるいよ……。
あなた……。





Clock on the hill


遠い昔の話 悲しい愛の物語
出会いは 悲しい偶然 重ねあった 心の絆

めぐりあえた ふたりは 奇跡をもとめて
悲しみを消す 口づけの数 重ね続けていた

風の吹き抜ける丘の上 ぼくらは結ばれていたよと
きっと ふたり 永遠の愛を遂げるのさ

風の吹き抜ける丘の上 二人の愛は変わらないと
Clock on the hill 永遠の愛を刻むのさ


時は静かに流れ 優しい愛の物語
出会いの やさしい偶然 寂しさを 笑顔にかえて

手を重ねた僕たちを 包み込むように
風は歌い 時を告げる この丘の上で

風の吹き抜ける丘の上 ぼくらは結ばれていたよと
きっと ふたり 永遠の愛を遂げるのさ

風の吹き抜ける丘の上 ふたりの 愛は変わらないと
Clock on the hill 永遠の愛を刻むのさ


【あとがき】
この物語ができるまでをブログに書きました。
よかったら、こちらまで。
色々と都合があって、朗読ファイルと原稿が異なっています。 
何度も聞きなおしているうちに、どうしても、直したかった部分を直してしまいました(笑)
できれば、完成版でもう一回録音したいのだけど……そうは問屋が卸さないみたいです。
誰か……